安全は総合力            まえのページへ    


  ワールドカップドイツ大会が終わりました。色々なドラマが繰り広げられました。日本は、残念ながら、決勝リーグ進出はできませんでした。それに、3度のワールドカップを経験し、日本の世界デビューの原動力を担ってきた、中田英寿も29歳で引退を宣言しました。「人生とは旅であり、旅とは人生である」との、メッセージのもと引退を宣言しました。彼には、何か目的があっての引退のようですが、まだまだ、第一線で活躍できるのにと思うのですが、もうピッチで見られないかと思うと残念です。ずいぶん前から決めていたとのことですが、今後の活動に注目が集まっています。
 試合の方は、イタリアの優勝で幕が引かれましたが、何故、イタリアが勝利したのか、様々な分析が、色々な人によってなされています。厚かましくも素人の私が勝手に分析してみますと、イタリアもフランスも似たようなチームで、ここまで来たのは、ともに、攻撃と守りの組織力が、総合的に、どの他国よりも、勝っていたのではないでしょうか。とくに、決勝戦では、お互いの攻守が、拮抗していました。しかし、どちらかというと、フランスの方が押していたのではないかと思います。延長戦でも決着がつかず、結局は、PK戦で勝敗が決まりました。スポーツの勝敗は、実力だけではなく、運もあると思います。あの時のシュートが、バーのもう少し下だったら入ったのに、あるいは左でなく、右にけっていたら、キーパーにブロックされず、状況は変わっていただろうにということがあります。中には、呪われたみたいに、身体の自由が利かなくなって、PKのボールに力がなくなったとか。国民の期待を一身に受けているだけに、考えられないほどの強いプレッシャーが加わるものと思われます。人間が蹴る以上、機械と同じようにはいかず、プレッシャーを感じてのミスや、運はつき物です。
 ところで、ミスといえば、最近、A社のエレベーター事故が問題となっています。A社の日本国内のシェアーは1%とのことですが、シェアーは、極少ないのですが、港区の高校生の死亡事故以来、毎日といっていいほど、A社のエレベーターに集中して、異常が報告されています。
 A社は、2004年11月から今年6月にかけて、扉が開いたままエレベーターが昇降するトラブルが、浦安市のマンション(2基)、東京都八王子市の文化施設、名古屋市の愛知県庁舎(2基)で、計5件発生しているが、このトラブルは、制御盤のプログラムミスが原因で起きたとの調査結果を明かにしています。港区の事故機については、別の種類のプログラムが使われており、原因は調査中としていますが、先の5基の他にも、4基のエレベーターでも、ミスのあったプログラムが今も使われていることが判明したとしています。監督官庁は、各自治体に安全確保を指示していますが、これらの9基は、扉が閉まる直前に「開」のボタンを押すと、扉が実際に開く。一方で制御盤は閉まった状態と認識し、エレベーターが動きだす欠陥があるということです。
 A社によると、問題のプログラムは1991年に開発し、1993年までに設置した計52基のエレベーターで使われた。1993年にミスが発覚し、うち49基は改修したが、部品の交換をしていなかったり、再び、誤ってプログラムを改修前の状態に戻したとのことです。他の会社に比べると、3倍近くもトラブルが多いとのことです。こうなると、自治体の中には、撤去して、新しく国産のエレベーターに変更するところも出てきています。人の命にかかわることだけにいい加減では済まされません。
 このトラブルを受けて、エレベーラーのように、人の命に係るようなことは、もっと安全システムを強化する必要があるのではないかと、つまり、最近のニュースによると、国土交通省は、扉の開閉の確認を別システムにして、2段構えで、安全を保つことが必要であるとの考えを出してきています。
 こう言えば、コンピュターのプログラムの問題は、A社だけのように聞こえますが、世界的な問題となっています。B社でさえ、プログラムの不良によるリコールをしています。B社は先月、何もしないのに警告灯が点灯し、ガソリンエンジンが突然停止するとの報告を受け、ハイブリッド車を、約16万台を無償修理すると発表しています。B社でさえこれですから、プログラムミスは、これからの、大きな問題であります。どんどん、複雑になり、担当者しか分らない時代に入ってきています。
 ところで、物を燃焼するには、3つの条件が必要です。@熱源がある(4類危険物であれば、引火点以上にする)、A酸素がある(燃焼範囲にある)、もちろん例外もあり、炭酸ガスでも燃える金属もありますが、B可燃物がある、燃焼という化学反応にはこの3つの条件が不可欠です。逆に言えば、このひとつを除去すれば、燃焼は起きません。つまり、引火点以上にしないということを、100%確実に実施すれば、他のことを実施しなくても発火には至りません。
 しかし、人間はミスをします。また、手抜きもします。また、機械も故障をします。ですから、何回かに一回は外れることがあります。将来にわたって、100%ということはあり得ません。これを、並列の冗長システムと考えて事故率を計算することが出来ます。ひとつの対策だけ実施した場合、1%のミスが発生するとしますと、100分の1の確率で発火が起きます。
 次に、酸素を除去するという、2番目の対策も合わせて実施する、つまり窒素で酸素を置換することを対策とした同時に実施した場合、1%の割合で不具合が発生するものとすると、100分の1掛ける100分の1で、一万分の1に発火の確率が下がることになります。
 さらに、次の対策として、可燃物を取り除くということを対策として行ない、同じ確率でミスが発生するとすると、100分の1をさらに掛け、100万分の1の発生確率となります。実際のミスの確率は分りませんが、対策を講じれば、講じるほど、発火の確率は下がります。しかし、どれかの対策が100%でない限り、いつかは発火が起きるということです。だからといって、ほってもおけません。
 人間は間違いを起こします。個人の能力だけにたよる安全対策では不十分です。また、機械も故障します。機械に全てを任せるだけでは不十分です。あたり前のことですが、このように、人が絡んだり、機械が絡んだりするものですから、間違いや故障をゼロとすることは難しいのです。したがって、事故を減らすには、確率をゼロに近づけるには、違う組み合わせで、システムを変えて、安全活動をしなければなりません。そういう意味では、安全活動は、色々な活動を組み合わせた総合的な活動であり、組織の力ではないかと思います。
 定期点検は設備の異常の有無を感知するシステムです。KYT活動やヒヤリハットは個人の安全能力に目をむけた安全技術向上のための危険感性のアップのツールです。リスクアセスメントは、機械の故障や、人間の間違いの可能性を事前に把握し、発生が予見される危険度に応じて、安全化を先取りしようとする活動です。リスクアセスメントを、確実に実行していくことによって、大きく、事故災害の確率は下がります。ロナウジ・ニーニョのワールドカップと言われ、個人技の力を主体としたブラジルの戦法は、フランスに破れ、次へ進むことは出来ませでした。全員一丸となって、組織力によって守り、そして、個人の能力をも引き出すという戦法が、フランスを決勝戦へと導いたものと思われます。安全は総合力な組織力であります。そういう意味では、ひとつひとつの活動を大切にして、総合力をアップして、事故の確率を下げなければなりません。(2006年7月記)