安全にはユニバーサルデザインを
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 私が会社に入ったころ、定年は55歳でしたが、寿命が伸びた関係もあって、その後は60歳が定年になっています。しかし、最近ではさらに、寿命がのび、高齢者がどんどん増えてきています。一方では、少子化とかフリーターの増加により、働く若者が減少するという状況になっています。このため、厚生年金を納める若い人が減って、厚生年金の枯渇により、定年後の生活資金である厚生年金の支払いも、昭和24年生まれの人が満額受け取るのは、65歳からになってからです。しかし、定年が60歳では、5年間の収入が不足しますので、何とか生活の手立てを考える必要があるとのことで、定年延長をしたり、形を変えて雇用を継続したりしています。このような状況ですから、以前に比べると、実に10年も余分に働かなければならない時代に来たわけです。
 ところで、日本人の平均寿命を厚生労働省の2000年の統計からみてみると、男性が77.64歳、女性が84.62歳であります(2004年の統計では78.64歳と85.59歳)。医療技術の進歩、保健衛生の確立で、これは男女ともに世界の最高の平均寿命で、特に女性は16年連続世界一でありました。ご存知のように、平均寿命とは生まれてから死ぬまでの年月ですが、健康で障害の無い、健康年齢という観点から見ますと、女性が77.2歳、男性が71.9歳です。これも世界で一番でした。ちなみに、平均寿命と健康寿命の差を男性についてみますと、5.6年です。この5.6年は、癌、循環器病、生活習慣病、寝たきりや痴呆などの高齢化に伴う障害をもって生きている年数ということになります。いかに、この年数を短くするか、平均寿命を健康寿命に近づけるかということが個人的には望まれます。ぴんぴんころり、いわゆるPPKであの世へ参るということです。しかし、これだけは神のみぞ知るで、自分ではどうすることも出来ません。したがって、これからは65歳まで働く必要がでてくるわけですから、入院もせず、旅行等で定年後の老後を元気で楽しめるのは約7年間ということです。
 働く年齢が長くなったわけですから、相対的に高齢者の労働災害も次第に増加しています。労働災害のうち、50歳以上が占める割合は、休業4日以上で、昭和60年には36.9%でありましたが、平成19年には、43.3%と大幅に増えてきています。高齢者の割合の増加が高齢者災害発生率の高さにつながっています。一方、交通事故の死者では65歳以上の人が40%を占めています。多くの製造業では高齢化が進み、高齢化工場になってきています。
 ところで、われわれは、加齢による身体能力には個人差がありますが、病気以外で、老いを感じるのはどのような時でしょうか。また、どのようなことが体に起きるのか考えてみますと。
 1、以前おこなっていた仕事の変更や新しい仕事に付く場合、覚え難くなった。若い人に比べて覚えるのに時間が掛かるということです。
 2、同じ仕事をしても、疲労感が増す。
 3、耳が聞こえ難くなった。若い時の40%低下すると言われています。
 4、反応が鈍くなった。50歳を基準にすると、知覚のスピードや正確さは、若いひとに比べて20%低下しているとのデータがあります。あれそれが多くなります。そこの、あれを入れて、とかです。
 5、筋力が落ちたり、関節の動きが悪くなる。柔軟性が低下する。筋力について見れば、最良期に比べて、50歳台では、屈腕力80%、背筋力が75%、伸筋力が63%に低下します。若い時と同じ気持ちで運動や仕事をして、思わぬ怪我をします。
 6、遠近の調節も出来にくくなり、視力も低下してきます。コントラストの低いものは識別し難くなります。
こんなことを高齢になると感じるのではないでしょうか。
 ところで、今後ますます高齢化の進行が予測される中,すべての人が不自由を感じることなく利用できる町づくりや物づくりを行うことが重要だと言われてといます。こうした考え方を具体的に進めるためのキーワードが「ユニバーサルデザイン」です。ユニバーサルとは、すべてのとか普遍的なという意味です。デザインはご存知のように、計画とか設計と言う意味です。国立語学研究所の訳は万人向け設計ということです。
 これは,アメリカの建築家でノースカロライナ州立大学のロナルド・メイス氏により提唱されました。彼自身も身体に障害を持っており、これまでのバリアフリーの概念に代わって、1980年代に、「出来るだけ多くの人が利用可能であるように製品、建物、空間をデザインすること」をユニバーサルデザインと定義しました。
ユニバーサルデザイン7つの原則 とは
 1、誰にでも使用でき入手可能(公平性)
 2、柔軟に使用できる(自由度)
 3、使い方が容易にわかる(単純性)
 4、使い手に必要な情報が容易にわかる(わかりやすさ)
 5、間違えても重大な結果にならない(安全性)
 6、少ない労力で効率的に、楽に使える(省体力)
 7、アプローチし、使用するのに適切な広さがある(スペースの確保 )
であります。
 ユニバーサルデザインと混同されるのに、先の、「バリアフリー」がありますが、バリアフリーは人を隔てたり、行動を妨げたりする障壁を取り除いた状態をあらわす言葉です。道路や建物の中にある段差をなくすことや、階段やエスカレーターしかない所にエレベーターを設置することなどがこれに当てはまりますが、これらは障害者や高齢者など特定の人に対する特別な対策であります。
 これからは、企業においても高齢化社会が進展するわけですから、ユニバーサルデザインの観点から安全を考える必要があります。一般的な具体的例で説明しますと、
 1、誰にでも使用でき入手可能(公平性) については、
  若いひとだけでなく、年配者であっても問題なく使用できる。さまざまな人の利用を考え、電話機の設置高さを変えた例があります。
 2、柔軟に使用できる(自由度) については、
  使用方法は画一的でなく、男性用のトイレでも子どものオムツが換えられるようになっている。右利き、左利きどちらでも使えるようにする。
 3、使い方が容易にわかる(単純性) については、
  使用する人の経験や知識、言語能力に左右されないで使用方法はわかる。専門教育を受けていなくても、はじめての方でもすぐ分かる。
 4、使い手に必要な情報が容易にわかる(わかりやすさ) については、
  分かりやすい作業手順書。文字が見え易い。コントラストがはっきりして識別し易い。大切な情報は、(例えば大きな文字で書くなど)できるだけ強調して読みやすくする。
 5、間違えても重大な結果にならない(安全性) については、
  事故などによる悪影響が最小限となる。間違っても安全なように配慮をする(フェイルセーフ)。注意が必要な操作を意図せずにしてしまうことがないように配慮する。
 6、少ない労力で効率的に、楽に使える(省体力)については、
  高齢者は腰痛が発生しやいが、時間の低減、重量物の軽重化、あまり力を入れなくても使えるようにする。
 7、アプローチし、使用するのに適切な広さがある(スペースの確保) については、
  階段は上り難くないか。どんな体格や姿勢、移動能力の人にも、アクセスしやすく、操作がしやすいスペースや大きさがあるか。
 先にも書きましたが、加齢により社会的にもさまざまな問題が発生し、かつ災害も多く発生しています。雇用の高齢化は、個人能力に大きな差がある状態で、安全確保を行っていく必要が出てきます。このため、設備は、装置は、操作標準書等は、高齢者にも若者にも合致した、いわゆる、ユニバーサルデザインの7つのキーワードを取り入れていく必要があります。
 私自身をとっても、高齢化が進んでいます。
 @過去の経験による影響を引きずることにより理解不足に陥りやすい。
 A理解に時間がかかる。特に新しい仕事では時間がかかる。
 B高度な機械に対しては挑戦を躊躇する。
 C記憶力が落ちている。
 D体力機能が落ち、踏ん張りがきかない。
などであります。
 われわれは、老いていきます、かといって、老いを止めることはできません。間違いや怪我をしないようにするには、まずは老いを自覚することです。老いを認めることです。そうすれば、老いに対する自己防衛が出来ます。これからは、いやおう無しに何らかの形で働かなくてはならない時代です。本当に年はとりたくないと思います。しかし、避けて通ることが出来ない道です。高齢化とうまく付き合うことが必要です。そして会社でも社会でも家庭でも、自らの老いを自覚した行動をとれば、つまり忘れ防止にはメモを活用する習慣を身につけたり、転倒防止には安全なところをゆっくり注意しながら歩くとかすることよって、事故災害等にあわない自分を作ることができるのではないでしょうか。