あやつりの名手に
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 『あやつる』を辞書で引くと、うまく扱う、人形などに糸をつけ、 物陰からそれをひいて動かす、と説明してあります。 つまり人形などにある動きをさせること、 特に糸を用いて動かす事に『あやつる』の語源はあるようです。
 西洋では『マリオネット』人形がありますが、 手足などにつなげた9本の糸を動かすことにより、 様々な動きを表現することができます。 『マリオネット』人形を扱った有名な話としては『ピノキオ』が上げられます。 近年の 日本では、『ひょっこりひょうたん島』が、 操り人形で撮影された人形劇として有名です。
 この『マリオネット』人形を現在の機械に置き換えるとすれば、 油圧ショベル(バックフオー)や鉄骨カッターなどを思い浮かべることができます。 バケットをアームの先端に取り付けダンプカーに土を運び込む、 あるいは、ビルの解体などで鉄骨を切り刻んでいく様です。 これらは建設機械の代表選手で省力化の第一人者です。 これらは、あやつり人形と同じ様に、 オペレータが運転席で両手を使ってレバーを動かしながら、 そして両足でペダルを踏みながら、 人形使いが糸を動かし人形の動かすのとの同じように、 油圧ショベルのバケットやカッターを動かしています。 あやつり人形の糸にあたる部分が油圧管で、 バケットやカッターを手足のように動かすのです。
 一昨年、退社を機に「東北の夏祭りめぐり」をしてきましたが、 秋田市の「竿燈まつり」にも行ってきました。 竿燈は竹竿全体を稲穂に見立て、大若(おおわか・一番大きいもの)は 米俵を表す提灯の数が46個で、重さは50kg近くになります。 この竹竿の下の部分を手・額・肩・腰などにのせ、バランスを取りながら、 風になびく稲穂の姿を想像しながら、妙技を競うものです。 簡単に、手・額・肩・腰などでバランスをとりながらと言いましたが、 揺れ動く竿燈と高い位置にある重心の移動方向を予見しながら、 バランスを保つのは至難の業です。まさに、重心の動きを目で追い、 移動を身体で感じながらうまくあやつる職人芸です。 ところで、この竿燈にも上手、下手がありました。 ちょっと風が吹くと竿燈を大きく揺らして、倒したりしていましたが、 上手い人は、揺れてもすぐに立て直していました。 難易度が高い腰で支える竿燈や、竹竿の追加をして ひときわ高くしなった竿燈の妙技には感激の一言です。
 下町の玉三郎と言われる「梅沢富美男」と言う役者がいます。 女形の役者で女性から人気が高く、東京を中心に活動をしています。 彼は歌手でもあり、彼の歌を聞かれた人も多いかと思います、 カラオケの好きな人なら一度や二度は口にされたのではないでしょうか。 彼の歌に「夢芝居」という歌があります。 その中に「男と女あやつりつられ細い絆の糸ひきひかれ」と言う歌詞があります。 男と女の世界では、操ったり、操られたりそれは楽しみでもあるかもしれません。 それは人生の快感であると思います。 家庭でも、奥さんを操っているようで、実は操られている。 夫婦の間は見えない糸で繋がれて、何も言わなくても心は通じているから。 夫婦なら絆の糸で結ばれ、阿吽の呼吸で物事は進む、こんなあやつりの世界もあるのです。
 しかし、安全や製品の作り込みに関しては、あやふやなあやつりでは許されません。 いい加減な行動で、阿吽の呼吸で機械設備にあやつられていたのでは、 事故や異常が発生してしまいます。言ったつもりが伝わっていない、 こんなことを経験しているではないでしょいうか。 言ったことが確実に伝わる、 書いたことが確実に操作されることがこれらの作業では重要です。 つまり、安全や製品の作り込みには、 フィードバックの繰り返しによる確認が最も重要なのです。
 『あやつる』とはフィードバックによる確認を繰り返しながら、 事を確実に進めていくことなのです。 ヒューマンエラーの防止が言われていますが、安全や製品製造の世界では、 それは、「指差呼称による確認」や「チェックシートによる確認」、 あるいは「分析の結果の確認」であったりします。 『あやつる』の作業の主体となるためにはこれらの確認が重要となります。 仕事にあやふやは許されません、確実に事を進めることが必要です。 操りの名手、仕事のプロになるには、確認をしながら作業を進めていく必要があります。
 この操りの書はどこの職場にもあると思います。 『あやつり』を漢字で書けば操作の操をかいて『あやつる』とよみます。 あやつるとは先にも言いましたように操作する、 操縦するという意味で使われています。 但し、単なる操作であやつるは使われません。 その操作が上手であり、巧みであるときに、はじめて使用されます。 そうです、「操作手順書」はあやつりの書なのです。