フン知った鳩ノ巣                              まえのページへ   



 人の話を充分聞いておらず、早合点、思い込みで仕事をした。人間が介在する限り防げない事故です。これに関する事故は枚挙に暇がありません。
 ところで、少し前の話ですが、緑陽町という所に住んでいました。奈良津町の北の団地です。中古住宅を購入したのですが、前の住人が、いろんな植木を植えておりました。山茶花、梅、金木犀、木蓮、ライラック等々、近所の家に比べると緑の多い家でした。
入居後、柚子、橙、カボスなどの柑橘類を植えて生け垣の代わりにしました。年中緑がある、果実も収穫できる、一石二鳥を狙って植えました。
 ある年の夏の事ですが、キジ鳩が我が家のアンテナとまっている様子を頻繁にみるようになりました。蔵王山の麗の団地だから、野鳥は頻繁に訪れます。鶯、メジロ、ツグミ等、他に名前を知らない野鳥も随分来ます。ですからキジ鳩が来ても別に、何も不思議には思いませんでした。  夏の終わりの日でしたが、梅の木にキジ鳩が入るのを見ました。何で、わざわさ小枝の多い、入り難い梅の木にはいるのかと一応疑問には思ったのですが、いろんな鳥が集ってきますのて、暑さをさけて休息をしているのかと、始めはそんなことも有るだろうと思ってやり過ごしました。しかしその後、何度と入るのを確認しました。そこで、よくよく見ると、キジ鳩が梅の木の中に、巣を作っておりました。何てこんなに居心地の良くない所に巣を作るのか、いくらでも巣を作る場所は有ろうものをと、家内と話したものです。実は、梅の木に絡ませて、アケビを植えておりました。梅の木は葉っぱが途中で落ちたりするので植えてみたのです。何時の間にか、アケビは梅の木全体を覆う程大きくなり、それに、剪定もしないものですから、中は全くといっていいほど見えないくらいに覆い茂っていました。
 家の周りでは、毎朝のように、カラスがアンテナや電線に止まって餌を狙っています。雑食ですから雀や、鳩の雛を餌にしたりするのもよく見かけます。その点、丁度、梅の木は、アケビの葉っぱで覆われていて中が見えないようになっており外敵から身を隠すには恰好の場所となっていたのです。上からも、横からも、下でじっくり見ないと絶対に分からない場所です。そんな場所だったから、人が頻繁に通る騒がしい場所でも、キジ鳩は安全だと考えて巣を作ったのでしょう。立派な危険予知活動です。
 ところで、9月の上旬ですが、玄関の門扉の下に卵がおちて割れているのを発見しました。ああ、折角生んだ卵なのにどうして落っことしたのか。巣龍もりでも止めたのか。良く見ると、鳩の巣は小枝を10から20本程度、荒く重ねただけの、巣とはいえないほどとても簡単なものでした。これなら卵が落ちてもしょうがない。キジ鳩はどうしてもっと緻密な巣を作らないのでしょうか。
 実はその年、家の裏の木の中に、もう一つ別の巣を発見したのです。これは枯れ草と曲がりやすい小枝をぐるぐる巻きにした実に緻密で、しかも丸い花瓶のような形をしており、巣の中を外からは見えません。キジ鳩の巣と比べると雲泥の差が有ります。鳥の習性でしょうが、あまりにも違いが有りすぎます。何という鳥の巣かは、巣立ちをした後なので分かりませんでしたが、余りにも芸術的なので、次の年の春に新たに巣龍もりをしなかったら、飾りにでもしようかと思ったくらいです。それに比べ、キジ鳩の方は、緻密さも芸術性なども全く有りません。
家内がこのキジ鳩のことを近所の奥さんに話したら、キジ鳩の粗末な巣のことを引用した、「フン知った鳩の巣」ということわざがあるそうです。ことわざ辞典を引いても、出ておりませんので、全国的なことわざかどうかは分かりません。近所の奥さんが言うには、キジ鳩の巣のように簡単に作って、失敗する。他人の言うことを良く聞かずに、はや合点したりして失敗するおっちょこちょいの人のことを言うそうです。キジ鳩の巣を実際に見、そこから卵が落ちているのを目の当たりにして、この「フン知った鳩の巣」の意味がなるほどと思えました。
 安全の基本のひとつに、指示を確実に聞き、実行することが挙げられます。指示にもいろいろ有りますが、指示は最後まで、しっかり聞き確認する必要があります。何かと気ぜわしい日々が続くことになると、ついつい、忙しさの余り充分聞かないで、空返事をしたりする事があります。よく聞かなかった、早合点した為に発生する事故・災害は結構あります。
 また、逆に的確な指示をしなかった為に起きる事故も多々有ります。複雑な指示、簡単な指示、口頭による指示、文書による指示、指示にも色々ありますが、一方的な指示では本人が本当にわかっているかどうか分かりません。ときには、相手が指示を理解しているかどうか、内容の確認も必要です。確実に伝える必要があります。
 こんな話を聞いたことがあります。反応をよくみといてくれ。その人は、じっと反応のチャートをみていたそうです。反応の温度は上がり異常品ができたそうです。笑い話にもなりませんが、指示は具体的かつ簡潔にする必要があります。所謂、5WIHです。何時・どこで・誰が・なにを・なぜ・いかにして行うかです。
 「フン知った鳩の巣」は、聞く側の問題点を言っていますが、指示を出す側も、本当に相手が理解しているかどうか確認する必要があります。
 人間の性格は直りません。早合点する性格のひとの性格は直りません。しかし、自分の性格を知って、是正する努力すれば行動は直せることができます。自分の性格を知って、一度、キジ鳩のようなことがあると、二度と失敗をしないよう、肝に銘じて、行動することが重要です。
 残ったもう一つの卵は無事かえりました。小さいときは巣の中に親鳥がいて、子育てをしておりましたが、ヒナが大きくなって、餌を頻繁にねだるようになると、巣にから離れ、子鳩だけになりました。その年の9月は結構雨が降りました。親鳥と一緒にいたヒナのときは、親鳥の下に入って、雨が降っても、それほど濡れる心配は無かったのですが、子鳩だけなってからは、雨に濡れておりました。巣の上に傘でもさしてやろうかと相談したりしました。しかし、アケビの葉が梅の木全体を覆っていたので、寒さで命を落とす程濡れずに済んだようです。キジ鳩ですが10月の始めにはめでたく巣立ちました。
 わが家に巣作りをしたキジ鳩のように、卵を落としたりして、「フン知った鳩の巣」と言われることがないよう、充分話を聞いて失敗をしないようにしたいものです。

右の写真は別のキジ鳩の巣です。これはしっかりとしたつくりです。
  なお、ネットには「うん知った鳩の巣」と出ていました。ことわざ辞典で調べてみたのですが出ておりません。どちらが正しいのでしょうか?。