「冗長性」〜て?くどいこと?
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 人間は間違い起こします。人間による間違いが原因の事故災害が新聞に載らない日はないといっても過言ではありません。 体験も含めていくつかの例を考えてみたいと思います。 
 「品名間違い」
 ホームセンターでのことでした。レジで60歳ぐらいのおじさんが「パセリはいくらですか」、 店員さんは「68円です」と。ところが、良くみると、おじさんは「セロリ」を手にしていました。 私は確か、「パセリ」と言ったがなあと思い、それは「セロリ」ですよと。 おじさんはポカーンとして何を言っているのかなあという様子です。 もう一度「それはセロリですよ」といったら、ポットに貼られた品名をじっくり読んで、 「ああ、セロリだ」、「セロリならいらんわ」と置き場へ返しに行きました。
 「セロリ」を「パセリ」と間違って読んでしまったのです。 苗の様子を知っている人なら一目で分かりますが、家庭菜園の経験の浅い人だったら、 苗の様子からだけでは判断がつかなかったのでしょう。 成長し、形がはっきりするとその違いは一目瞭然ですが、 苗の形だけでは見分けがつかなかったものと思います。
 「パセリ」と「セロリ」、一字一字、声を出して読めば、あるいは、声を出さないまでも、 一字一字、目で追えば間違いが分かったと思うのですが、ざっと目で追っただけなので、 間違いに気づかなかったものと思われます。在職中にもよく経験した読み間違いです。
「コンピューターの入力間違いが大きな損失を引き起こします」
  コンピューターの入力の間違いで大きな損失を起こした例があります。 少し古い話ですが、2001年11月30日のことです。ご存知の方も多いと思いますが、 広告代理店最大手の電通が東証1部に上場しましたが、 このとき、USBウォーバーグ証券は「61万円で16株売り」と入力する予定のところを、 売りの値段と株数を前後させて入力し、「16円で61万株売り」と誤って入力してしまいました。 6万6千株が成立し、90億の損失を出しました。ごめんなさいではすまない間違いです。 体力のない会社であればすぐに倒産です。
2005年12月8日にも、みずほ証券の担当者が「61万円で1株売り」とすべき注文を 「1円で61万株売り」と誤ってコンピューターに入力しています。 コンピューターの画面には、「注文内容が異常」との警告が表示されたが、 担当者がこれを無視して注文をおこなっています。「たまに警告は表示されるので、 つい無視した」というのが警告無視の理由です。 担当者は、売り注文を出してから1分25秒後に誤りに気付き、 3回にわたって売り注文の取消し作業を行いましたが、 東証のコンピューターは認識しませんでした。 また、「東証と直結した売買システム」でも取り消そうとしましたがこちらも機能しませんでした。 この誤発注によりみずほ証券は、407億円の損失を受けたとされています。 その一方で、ある投資家は20億3,500万円 、 また別の投資家は5億6,300万円の利益を上げたとのことです。 そして、今回もなぜか指し値は61万円でした。
以上は世間を賑わせた株取引に係るコンピューターへの間違い入力2例ですが、事故災害に関与した、 単位、数字などの計器への入力間違いも多発しています。鉛筆なら消しゴムで、口頭なら言葉で間違いを訂正すれば すぐに訂正できますが、システムと連動したコンピューターの場合は即効性があるために、別次元での誤入力防止対策が必要です。
「確認不足の例です。」
 偉そうなことを言っていますが、こういう、私も度々間違いをします。 風呂を沸かす時、何度かミスをしました。タイマーのセットをしなかった為に湯が溢れた、 風呂の栓をしていなかったのでせっかく服を脱いだのに湯船は空っぽであった。 湯を入れたつもりが水であったなど。こうして話していると何度同じことをするんですかと 怒った家内の顔が浮かびます。
「間違って喜ばれた例もありました」
 中には、間違って喜ばれたという例もあります。2003年11月21日のことでした。 福岡県椎田町の椎田中学校体育館落成式で、バンダナがトレードマークの数学者秋山仁さんの 講演を計画し、体育館のステージには「講師 秋山仁先生」と垂れ幕を下げて、 挨拶した町長も「秋山先生のお話をよく聞くように」と生徒達に話しました。
ところが、来たのは、当時のダイエーホークスの「秋山幸二さん」でした。 秋山さんには無礼を謝罪し、講演の依頼を承諾してもらった。校長先生の心配とは反対に、生徒は「秋山幸二さん」 の突然の登壇に大歓声をあげました。最後は記念写真まで一緒に撮ったとのことです。 大失態のところが、喜ばれた間違いです。しかし間違いは間違いです。 反省すべきところは反省すべきです。そもそも、名字だけで依頼した。 名前も確認せず、勘違いして進めたところに原因があったのです。
「冗長性で間違い防止」
冒頭に冗長性と書きましたが、大辞泉を引きますと、冗長性とは、 「文章・話など無駄が多くて長いこと。余剰性。冗長度とは情報理論で伝達される情報に 含まれる余分な部分の割合。情報の誤りを検出・提出する手がかりとされる。」と記載されています。 冗長性とは、一見無駄なようですが、万が一に備える「余裕」のことです。 ぎりぎりの設計では冗長性は発揮されません。 安全でいう「冗長性」とは、バックアップシステムです。 もっと別の言い方をすれば、2重3重の安全システムを施しているということです。
「それぞれの例について考えてみますと。」
はじめの「パセリ」では、一人での行為ですから、「パセリ」と「セロリ」を読み違えた場合、 苗の形を知らなければ間違い防止は難しいでしょう。このような早とちりの人の場合、 一字一字の確認の習慣が効果的です。日常生活のなかでは、 一見無駄と思える冗長性を習慣付けることが安全につながります。 ラベルの品名と書類に書かれた品名の照合などでは、 二度目は逆さから読んでみるという習慣をつけるのも意外と間違い防止には役立つのではないでしょうか。
2番目のコンピューター入力間違いは、個人だけのチェックだけでは防ぎきれないと思われます。 システム上で冗長性を取り入れ、許容範囲のデータと比較照会するようなことを考えることが 必要と思われます。現実に、個人の株取引などでは、手持ち資金以上の購入はできないように、 指値の範囲は一定の幅が決められています。 売りの場合にも、持ち株を超えて売りはできないシステムとなっています。 また、入力番号の確認システムとして、電話などでは相手先の入力番号を音声で読み上げるなどの工夫がありますが、 秒単位での業務の場合は逆に煩わしくなるかもしれません。
3番目の私の例ですが、このままでは、今後も同じミスをするような気がします。 チェック表でも作成するか、家内にもチェックさせるかです。
4番目の秋山さんの例では、生徒には喜ばれましたが、依頼者も数学者の秋山先生とか、 フルネームを言えば間違いは起きなかったわけです。 また、講演の受付をした県の事務局も、一言余分なつけたしをして、頭に浮かべた内容の確認すれば間違いが起きなかったわけです。
「人間が係る冗長システムの場合は」
  人間が行うことにいつかは必ず間違いが生じます。 どんな優秀な人であろうと程度の差こそあれ間違いを起こします。 このため、ダブルチェックシステムが間違い防止にはとり入れられることがあります。 ダブルチェックシステムの安全度を計算してみますと、今、仮にその人の安全率が98%であるとすれば、 50回に一回ミスを起こすことになります。ダブルチェックとすれば、安全率は二回目が同時に間違いを起こす確率を 引いたものであり、1−(1−0.98)*(1−0.98)=99.96%となり、 2500回に1回の間違いにと大きく減少します。
しかし、人間が行う場合、二度目のチェックの部分の安全率はかなり低いのが現実です。 機械などが行うダブルチェックシステムであれば、プログラム通りに決められたことを、 システムに従ってチェックをしますが、人間は同じことを二度はしたがりません。 同じことを二度繰り返すことの煩わしさは周知の通りです。人間に対して、 屋上屋を架す対策を求めるのは意外と効果がありません。 人間に頼るのであれば、冗長性を身につけた作業人となることの方が効果的な場合が多いのです。 グズではだめですが、慎重であることは安全にとっては大切なことです。