ポカミス防止
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錯視は錯覚の範疇
 事故が発生した時に、よく「錯覚した」という言葉が使われます。 錯覚に関する書籍を読みたいと検索をかけてみると、錯覚という語句では書籍を探すことが難しい。 錯視という語句にすれば多くの書籍を探しだすことができます。
 この語句の意味の違いは何であろうかと、広辞苑で引いてみると、「錯視」は、「心理学分野では、 視覚における錯覚、大きさ・長さ・方向などが客観的なそれらとは違った見え方を生ずる現象」とあります。 一方、「錯覚」は、「心理学では、知覚が刺激の客観的性質と一致しない現象、一般用語では、俗に、思い違い」とあります。 これからすると、錯視とは錯覚の範疇で視覚に関する誤認、つまり視覚に限定した目の錯覚ということでしょうか。
安全における錯覚にはどう対処
 これからすると、作業ミスなどの災害防止対策を講じる場合には、 視覚的錯覚と一般にいう思い違いという錯覚は、分けて考える必要があるということになります。 つまり、錯視から生じる錯覚と、単なる思い違いによる錯覚は対処方法が違うということです。
 錯視の世界では、100人が100人とも物理的事実を誤認して捉えるのですが、 物理的事実と知覚的事実のアンマッチングという事象が起きています。 たとえば、地上近くにある月は、天空にある月よりも大きく見えますが、実は、月の大きさは同じなのです。 つまり、写真のような筒の中から月をみると、地上近くにあろうが、天空にあろうが大きさは同じなのです。  また、不思議なことに、更に5円のような小さな穴を通してみてもその円の中で一定に大きさに見えるのです。 (なぜこのような錯視が起きるのかは解明されていないとのこと)
 一方、安全でいう錯覚の場合には、全員が誤認するということではなく、 たまたま一部の個人が間違うということですから、 なぜ間違いやすいのかということに視点を合わせて対策を講じていく必要があるので厄介です。
思い違いというポカミス
 災害やミスが発生したときに、耳にするのが思い違いをしていましたという言葉です。 五感を通して入れた情報を脳でまとめる時の認識と事実のアンマッチングです。 場合によっては認識すらしてないことも多いのですが。
 別の言葉で言い直すとすれば、錯誤をいう言葉が適当でしょうか。錯誤を同じように辞書で引くと、 「@あやまり。まちがい。A事実と観念とが一致しないこと。現実に起こっている事柄と考えが一致しないこと。」とあります。 いわゆる安全用語で俗に言う「ポカミス」です。
 事故災害が発生して、錯覚していましたということが、回答として返ってきたら、どちらの原因かを検討する必要があります。 誰しもが視覚的にそう見えるのか、それとも思い違いというポカミスなのかです。 誰しもが物理学的事実と異なって見えるのであれば、対策は容易に講じることができます。 しかし、個々人に起きる思い違いというポカミスであれば、ポカミスに至らない仕組みづくりが必要ということになります。
ダブルチェックでポカミス防止
   読み間違い、聞き間違いなどの誤認識のポカミス、どうすれば防止することができるのでしょうか。ミスをする可能性は誰しもが持っていますが、 逆に、ミスをしない人もいます。何度も怪我をする人はおっちょこちょいであったり、人の話を十分聞かないという性格の人が多いのです。 ミスをしない人は、用心深く物事に慎重な人です。 自分を疑ってかかる人です。人間の注意能力には限界がありますが、ミスをしない人はどんなことを日頃実施しているのでしょうか。
 ミスをしない人は、自らがすることにはミスがあると疑って対処しています。つまり、知らず知らずのうちに、 再チェック、つまりダブルチェックを実施しているのです。これはミス発生率を大きく減少させます。ダブルチェックは冗長系の対策です。 1回目と2回目のチェックミスが同時に起きる確率がダブルチェックのミスとなるわけですから安全率は格段に向上します。
 つまり、100回に1回のミスを起こす人は、ダブルチェックをすることで1万回に1回に減少させることができます。 トリプルチェックすれば100万回に1回です。3回はしないにしても、ダブルチェックをし、 作業1回毎の安全性を向上させればミスをしない人になります。安全人となるために、 是非ダブルチェックの習慣を身につけて欲しいと思います。
 それにしても、最近の新聞を騒がしているコンピューター遠隔操作の誤認逮捕、 ちょっとお粗末すぎる「ポカミス」です。安全の世界とは違いますが、 自らを疑ってかからない自己過信が誤認逮捕を発生させているのかもしれません。 「警察」と「検察」組織としてのダブルチェック機能を生かす、 また昔よく耳にした嘘発見器使用などのツールとしてのダブルチェックで 誤認を防止するシステムはないのでしょうか。