レイアップ
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昨年は、世間を震撼させた秋葉原事件のような凶悪な事件の発生や、サブプライムローンに端を発した世界同時株安などの金融不安などの暗いニュースが多かったのですが、今年は、生活では政権の交代という大きな変化や、スポーツではサッカーのワールドカップ出場決定、サムライジャパンの優勝などの明るい話題がありました。そして、締めくくりは、昨年の1億631万円(5位)を大きく超え、1億8175万円を獲得して、史上最年少の18歳で賞金王となった、記録ずくめの石川遼のことになるのでしょうか。
石川遼は、昨年の1月にプロに転向しましたが、10月30日から11月2日まで、兵庫県加東市ABCゴルフクラブで開催されたマイナビABC選手権で初優勝し、ツアー最年少記録を塗り替えました。17歳1ヶ月での優勝でした。この優勝についてはいろいろな思い出すことがあります。
それは優勝を決めた、最終日の18番ホールです(ABCゴルククラブ)。右ドッグレッグで、525ヤード、パー5です。このとき、2位の深掘とは2打差でした。石川遼のボールは280ヤードのバンカーを越え、フェアーウエイに転んでいた。一方の深堀のボールは、木の根元につけ、出すだけの位置にあった。2打差であるから、普通であれば、レイアップして、3オンを狙うのが常識である。しかし、どう考えたのか、石川遼はレイアップせず、直接、7番アイアンで池越え、2オンを狙ったのです。案の定、ボールはわずかにショートして、刈り込まれたスロープを転がって池へ入りました。普通であれば、ダブルボギーになりますが、結果は、予想に反して、見事なウオーターショットで3mにつけ、パーで上がりました。
一方の深堀は、途中トラブルはあったものの、バーディーであがりました。結果的には一打差での優勝でした。まかり間違うと、同スコアーになる可能性がありました。石川遼は運がよかったとか言いようがないかもしれません。インタビューで言っていまいした。誰かに助けて欲しいほしいくらい苦しいゴルフで、泣きそうになったが、最後にいいことが待っていると信じてプレーしたと、涙ながらに答えていました。
しかし、よく考えてみると、2打差もあるのに、なぜ、安全策であるレイアップをせずに、直接、2打オンを狙ったのでしょうか、賞金は3000万です。企業などとの契約金収入が5億円もあるのではした金なのでしょうか。それとも、2000円程度の小遣いしか、いつももっていないので、予想のつかない金額なので、ただの数字にしか過ぎないのでしょうか。石川遼の世界では許されることかもしれませんが、普通のプロプレーヤーであれば、2打差もあるときに、許されるプレーではないと思うのです。
石川遼の世界では、許されることであっても、安全の場合には、危険が存在する場合避けて通らなければなりません。ゴルフの場合には、賞金であったり、名誉であったりしますので、リスクの尺度が違います。しかし、怪我が起き一生ゴルフが出来なくなる危険がるとしたら彼も無謀な賭けはしなかったのでしょう。
石川遼のプレーを、人間の特性から少し考えてみたいと思いますと、
第一の特性は、短絡の法則といって人間は近道行動をする習性があります。
つまり、三角形ABCがあったとする。A→B→Cは安全な道だがA→Cは不安全な道とします。しかし人間には近道してA→Cを行く本性があります。これは、「ゲシュタルトの法則」 ともいわれていますが、近道を完全に防止しようとすれば、垣根を作って、進行を妨げる以外にないといわれています。石川遼の場合には、賞金金額をもっと上げることが垣根となるのでしょうか。
第二の特性は、除外の法則といって、都合のよいように考えてしまうということです。
他のところであった事故も、「自分のところではそんな事故は滅多に起きない」と考えてしまう。「他山の石」とは逆の考え方。つまり、他人事と処理してしまうことです。石川遼の場合は、実力からすれば、7番アイアンで打てば、この距離であれば、グリーンにオンすると考えたのでしょうか。そして、一昨年VISAの大会でもウオーターショットでピンそば、15センチにつける離れ技をしていますので、自分にとっては、たとえおきても、上手くリカバリーできると考えたのでしょうか。
第三の特性は、リスクテーキングです。
人間には「この程度の危険ならば大丈夫であろう」と危険を承知で作業をするような本性がある。これを「リスクテーキング性」という。ダブれば池に落ちるというリスクを認知しても、いつも練習で成功しているので、ショートなどありえないとリスクを小さく考えてしまう。
こんなことが石川遼を池越えのショットへと導いたのでしょうか。
安全の世界では、人間の行動特性であるこれらの法則を理解し、近道・省略行為の防止をすることが重要です。ゴルフの勝負は、安全とは別の世界ですから、石川遼の近道行為は許された行為であると思います。別に、命の危険もないし、怪我もしない、誰にも迷惑がかからない、彼にとっては後で悔やむくらいのものかもしれません。
しかし、工場などの危険作業で、めがねをかけないで危険薬品を取り扱ったり、命綱をつけないで高所に上がったり、回転機器を停止しないで作業したり、決められた窒素置換をしないで作業した時に、失明の危険、転落の死亡の危険、巻き込まれの危険、爆発の危険があるとしたら、作業のレイアップが必要です。近道や省略行為を許すことは出来ません。
近道をして、挑戦できることと、出来ないことがあります。安全は、100%安全でないと、いつかは事故・災害が発生します。高所を綱渡りする人がいます。彼の勇気を讃えます。ですが勇気を褒めることはできても、行動を褒めることはできません。何故なら繰り返しを続けていると、いつかは落ちて死ぬかもしれないのです。その時はだれもよくやったとは言いません、馬鹿なことをしてと言うだけです。
管理者は、決めたことを守る、守らせる、そして作業者はこれを守る。事故・災害は確率で発生します。今日の安全は明日の安全の保証ではありません。省略行為をしても、今日は何もないかもしれない。しかし、明日、あさって、いや、退職の直前にあるかもしれません。
石川遼のプログは「イソガバ.マワルナ!」です。これは、マスターズ制覇の近道はプロ転向という気持ちを「いそがば まわるな」に込めたらしいのですが、ゴルフのプレーでは「いそがばまわれ」をテーマにしたのかもしれない。最近のインタビューで、危険を侵して攻めるのではなく、安全策を考えた攻め方が必要があるようなことを言っていた記憶があります。そういう意味では、彼は成長したと思います。この「いそがばまわれ」、つまりレイアップの重要性を知ったことが賞金王につながった要因ではないかと思うのです。ゴルフの世界も確率の世界と思います。益々、偉大なプレーヤーになるのでしょう。尾崎将司が26歳で達成した賞金王を18歳の少年が達成した。本当に驚きの一言です。
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